COLUMN
2016.08.09

【はせおやさいさん寄稿】何気ないひとことの積み上げで他人を動かしていた上司の話

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こんにちは、はせ おやさいと申します。

社会に出て早10年以上、会社員、フリーランス、それぞれの立場と経験を通じ、多くの人とお仕事をご一緒してきました。「十人十色」と言うように、その人、その人の考え方やこだわりが違います。仕事を通じて、働く人の「矜持」のようなものに触れる瞬間は、目の前に新しい道が開けたような、それまで持っていなかった視野を手に入れたような、そんな不思議な気持ちになります。

その中でも、「この人はすごい」と感じる瞬間、というのは、特に気持ちが良いものです。誇りと情熱を持って仕事に取り組んでいる人は、いつもまぶしく、刺激を受け、憧れを感じずにいられません。今回は、そんな素敵な人たちの中から、「この人には、かなわないなあ」と思った上司について書いてみたいと思います。

ひとりひとりに必ず「ありがとう」と言う上司

「あたしのチームで一緒に働こうよ」と彼女が言ってくれたとき、正直、わたしは腐りかけていました。当時の仕事に不満を感じていて、もう転職してしまおう、と思っていたのを拾ってくれたのがその上司で、ふわふわして明るい、少女のような人でした。一緒に働いてみると、神経質で完璧主義、自罰的なわたしと違い、明るく天然でマイペース、アポイントに向かう電車を平気で反対方面に乗り間違えるような人でした。

職場で座っている席が近くなってみて気が付いたのですが、彼女は自分の席に来る頼まれた仕事や書類を提出しにきた人たち、ひとりひとりに向かって、「ありがとう!」と必ず言うのです

「持ってきてくれてありがとう!」
「やっといてくれてありがとう!」
「がんばってくれてありがとう!」

彼女は経営層に近いレイヤーの管理職ポジションでしたし、仕事なんだから頑張るのもちゃんとやるのも当たり前なのに、毎回そんな風に腰を低くして「ありがとう」なんて言ったら、なめられませんか、と言う人もいましたが、それでも彼女は「だってちゃんとやってくれてるんだから、助かるし、嬉しいじゃない」と笑っていました。

「ありがとう」は頑張ったことを評価するメッセージ

あるとき、本社から子会社に出向して大きなプロジェクトを立ち上げることになりました。

わたしは彼女の直属として一緒に出向することになり、ほぼ何もない状態から作っていく必要に迫られたとき、彼女が全社にあてて、こんなメールを送りました。

「新しくできる子会社へ出向が決まりました。◯◯をやるつもりです。もし◯◯について知見がある方、パスやコネクションがある方、どんな小さなことでもいいので、力を貸してくれませんか」

そのメールを受信したとき、わたしはそのお願いはまったくアテにならないだろう、と思っていました。みんな忙しいし、自分たちの業務に関係ないこんな「お願い」を手伝ってくれる余裕なんて、誰にもないだろう、と。

ところがその思惑は外れ、各部署から様々な助けの手が挙がりました。

「以前、参加した勉強会でこんな非公開資料をもらったんだけど」「こういう人を紹介できるけど」「時間外でいいので、アイデア出しや企画会議に参加したい」などなど、次から次へと彼女のところへ情報や人脈が集まり、ゼロから作らなければいけないと思っていた企画が、いきなり7割ほど見通しが立ってしまったのです。

たくさん集まった紹介案件のいくつかに、わたしも同行する機会がありました。向かう道すがら、紹介を申し出てくれた別部署のメンバーに「みんな忙しいのに、どうしてこんなに力を貸してくれるんですかね」と聞いたことがありました。

彼の回答は、とてもシンプルでした。

「あの人なら、頑張ったことをきちんと評価してくれるから」

その頑張りが役に立とうが立つまいが、「頑張ろうとしてくれたこと」を見てくれるから、みんなもっと役に立ちたくて、出来るギリギリの範囲で動いちゃうんじゃないかな、と言われて、目からウロコが落ちるようでした。

給与査定に何ら影響がなくても、単なる言葉ひとつでも、彼女がかける「ありがとう」には、「わたしはあなたの努力を知っているし、評価しています」というメッセージが込められており、それがきちんと相手にも、伝わっていたんですね。個人的にとても驚きを感じた出来事で、その言葉が深く印象に残りました。

期待しないで感謝だけしていると、いろんなことがうまくいく

その後、子会社での事業もそれなりに軌道に乗り、彼女も役員として活躍するのですが、その後わたしは転職。彼女も海外で新たに起業するため別の道に進んだ後、数年ぶりに再会する機会がありました。

当時のことを振り返り、影響を受けたことを伝えて、わたしも「ありがとう」って言うようにしているんです、と報告すると、彼女はそのときの真意を教えてくれました。

「昔は依頼した仕事が自分の期待通りに仕上がって来なくて、イライラしたこともあった。でも、よく考えたら、他人に自分の理想が100%伝わることなんてありえなくて、そもそも期待するほうが無理な話なんだ、と思ったら、気が楽になった。

わたしは自分のやりたい仕事を、会社という屋根を借りてやっているわけだから、みんながわたしのやりたいことに手を貸してくれているんだ、と思ったら、自然と『ありがとう』が出るようになった。期待しないで、感謝だけしていると、いろんなことがうまくいくようになった

というのです。この話には、2つの驚きがありました。

まず彼女には「他者に期待をしない」という、ある種の「諦め」があったこと。そしてその「諦め」が功を奏し、彼女のマインドを平静に保つための基準点になっていたことです。

確かに、誰かに対して期待していたことが裏切られると、とても悲しく、がっかりしたり、怒りを感じたりしてしまうけれど、まず期待しなければ、裏切られることもないわけです。こう書くと少し寂しいようにも感じますが、それが結果的に彼女に平穏をもたらしたのであれば、なんと合理的な立ち位置なんだ、と思いました。

そしてもう1つ、「自分のやりたい仕事に、周りが手を貸してくれている」という視点です。「やらされている」のではなく、「やりたい仕事を、会社の屋根を借りてやっている」という主体性があり、逆に会社やそのリソースを利用してしまえばいいんだ、という転換があったということ。

この話を聞いてから、わたしもなるべく「面白そう、やってみたい」と思える仕事に手を挙げて、「やりたいことをやるために、周りの手を借りよう」と思うようになりました。もちろん苦しい仕事や面倒な仕事もありますが、その先にあるものに自分が興味を持てているか? やってみたいと思えているか? を常に意識するようになると、会社や仕事に対する不満が、スッと消えていきました。

自分のために周りを利用しているから、感謝できる

わたしはわたしのやりたいことのために、周りを利用してがんばる。だから周りにも感謝できるし、がっかりしたり、不満を感じることもない。

彼女から自然に出ていた「ありがとう」という明るい言葉の奥には様々な感情や考え、強い意志があったのだなと知り、「この人にはかなわない」と痛感したエピソードだったのでした。こうした考え方はある意味、セルフマインドコントロールにも近いのかもしれませんが、生き抜くためには、必要な視点なのかもしれませんね。

どうせ働くなら、強く、明るく、たくましく。わたしもそんな風に働いていきたいと思っています。

今日はそんな感じです。

チャオ!

筆者:hase0831(はせ おやさい)
hase-240
会社員 兼 ブロガー。
好きなものはお酒と読書とインターネット。本業ではWeb業界のベンチャーをうろうろしています。
ブログ『インターネットの備忘録』を中心に活動。
「サイボウズ式」にてブロガーズコラム連載中です。

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