COLUMN
2016.09.06

【ニャートさん寄稿】仕事で挫折した人に差しのべられるべき手とは

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日本では、一度レールを外れると、ふたたび戻ることは難しい。

OECD「失職者レビュー」(2015)によると、2002~2013年の失職者のうち、1年以内に再就職できた人の割合は48%と半数以下である。3分の1が失業したまま、4分の1が一時的に労働市場から抜け落ちてしまう。

「仕事で挫折して社会復帰が困難な人のために、周囲はどんな支援ができるか」というテーマをいただいた時、私は正直「書けるだろうか」と思った。実際書けなくて、この原稿の前に一度、ちがう原稿を提出している。

なぜ書けなかったのというと、仕事で挫折した私自身が、家族以外の支援を受けたことがないからだ。

私は過労でパニック障害になり、出版社をやめた後、引きこもりになった。
病気がよくなっても、最初からフルタイムで働くことは厳しく、3週間の短期アルバイト、レンタルショップ(1日5時間・週3)、教室の講師(1日6時間・週4)と働く時間を少しずつ増やしていき、ようやくフルタイムで働けるようになった経緯がある。

私は面接の時、聞かれない限りは病気について言わなかった(ブランクの理由を聞かれたら話した)。なぜなら、パニック障害だったことをオープンにして働ける会社など日本にはないと、私は経験から確信しているからだ。

だが、これは諸刃の剣である。
病気を秘密にしていれば、勤務中に病気による発作が起きても、だれにも助けを求められない。
まさしく「自己責任」「自業自得」なのだから。

ギリギリまで、絶対に会社をやめてはいけない

例えば、レンタルショップでのアルバイト初日に、発作が出そうになり苦しんだが、許可なく売り場を離れられず、「トイレに行く」と言ってトイレの水道から水と薬をがぶ飲みして必死に耐えた。

パート講師の仕事では、雪降る中、みんなでチラシを配らなければならず、発作が出て、許可なく持ち場を離れられず、積もった雪で薬を飲んで、靴のひもを何度も結んで気をそらすことで必死に耐えた。

バカみたいだ。
さすがに、病気のために職場に迷惑をかけたり、仕事の責任を果たせないことがあったら、正直に申告するつもりだった。結果、やめさせられるのは仕方ない。
だが、パニック障害の発作で死ぬことはなく、時間も私の場合は30分くらいだ。人に知られず、自分の中だけで耐えればよい。幸い、職場に慣れてきたら、発作は出なくなった。
つらいのは、最初の時期なのだ。

だから、在職中に病気になっても、可能な限りギリギリまで、絶対に会社をやめてはいけない
役立たずな自分に罪悪感を覚えても、周囲からお荷物と罵られても、やめてはいけない。

在職中に病気になった場合は、産業医とのカウンセリング、休職、復職時のサポートなど、在職する会社の支援を受けることができる。
業務量が原因で病気になったのなら、負担の少ない部署への異動を希望もできる。
制度がなくても、周囲は自分が病気だと知っている。特にサポートがなくても、どうしてもつらくて休む時に、風邪だの腹痛だの苦しい嘘をつかなくてもよい。
これらは、本当に大きな違いとなる。

一度レールから外れた人を、見捨てないでほしい

病気でやめた人が次の就職先で悩むのは、「休まず会社に行くことができるか」だ。
新しい職場に慣れるのは、健康な人でもストレスがかかる。
加えて、入ったばかりの会社で病気をぶり返しても、まだ仕事上の実績もないのにサポートを求めることは難しい。
だから、できるだけ会社をやめてはいけない。

特に精神の病の場合、発症前と同じように働くことは、一時的に難しくなる。
そのため、発症後は「何かをあきらめること」が必要だ。
発症後は実際、仕事の成果などよりも数段レベルの低い、「毎日会社に行けるか」が目標となる。
そのためには、とにかく無理をしないこと、欠席・遅刻・早退をせず、体調が悪くてもとにかく席に座っていることといった、健康な人から見れば低レベルであろうことが第一となる。

しかし、そうした期間は長く続くわけではない。
私も今では、週5日・8時間働いており、必要なら残業もできる。
それどころか、仕事の後に家事をして、こうして原稿を書いている時もある。

だから、一度レールから外れた人を、見捨てないでほしい。
一度の失敗で、その人の人生が終わってしまわないように。

こんな手が差しのべられていたら……

当時を振り返ると、こんな手が差しのべられていたら、とてもうれしかっただろう。

1.求職中に、自分のキャリアの棚おろしについてアドバイスをもらえる
2.病気の状態を聞いてもらえる
3.職場で、体調が悪い時は、仕事量や勤務時間を調節してもらえる
4.やがて病気は改善していくと信じてもらえる

1のキャリアの棚おろしだが、現実として、挫折後はレールから外れる前のようには就職活動は進まない。
特に私は、つぶしのきかない編集職で、それもブランクのために復帰はできず、それまでの仕事経験をどう次につなげればいいのか分からなかった。
結局、引きこもり中に勉強した、英語・Web制作・プログラミング(あとは編集時代のライティング)と、一つ一つのレベルはとても経験者にかなわなくても、全部できる人は田舎にはいないという複合技で仕事を得ている。
私ひとり雇えば、日本語でマニュアルを作り、それを英訳して、それをhtml化する、と1人で3人分になるので、そんなこんなで生きていっている。
今でも、これが正解なのかはわからない。私は友人にも病気を秘密にしているのだが、打ち明けられたらよかっただろうなとは思う。

2~4は、先ほど述べたように、職場で自分の病気について相談できたら、どんなに仕事がやりやすかったことだろう。
どれも難しいことはわかっている(特に4)。
だけど、もしあなたの周囲に私のような部下や同僚がいるなら、ほんの少しだけでも話を聞いてあげてほしい

優しい社会を望む

一度レールを外れた人の社会復帰が難しいのは「自己責任」だと思う人もいるだろう。
国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口の年齢構造に関する指標」(2016)によると、これから生産年齢人口(15~64歳)は下がり続け、2010年の63.8%から2030年には58.1%にまで下がり労働力が不足するため、移民を受け入れることも検討されている。
冒頭で述べたように、失職者のうち3分の1が失業したまま、4分の1が労働市場から抜け落ちる現状において、周囲がサポートすることで再就職者が増えるなら、たとえ手間に思えても、結果として日本の労働力の底上げにつながる。
病気や失業、介護などによる退職は、だれにでも起こりうる。
「自己責任」と責めるよりも手を差しのべることで状況が改善する、そんな優しい社会であってほしい。

筆者:ニャート
nya
元編集者。過労で退職→引きこもり→派遣社員の人生経験をもとに、主に労働関係についてブログ「ニャート」(旧「一橋を出てニートになりました」)を書いています。

BLOGOSのライターです。

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