INTERVIEW
2016.10.18

教来石小織×中村真一郎【前編】「カンボジアの子どもたちに映画を」。大きく拡がった、“ふつうの派遣社員”の夢

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インドシナ半島南部に位置する、人口約1500万人の小さな国、カンボジア。アンコール=ワットなどの美しい遺跡で知られ、国民の約3分の1を失った40年前の大量虐殺から立ち上がりつつあるこの国家には、世界中の多くの団体から支援が寄せられている。

「カンボジアに“食料”を」「カンボジアに“学校”を」「カンボジアに“図書館”を」。

そして、「カンボジアに“夢”を」

教来石小織氏が代表を務めるWorld Theater Project(NPO法人CATiC)は、カンボジアの村を訪れ映画を上映する活動を行っている。様々な世界を見せてくれる映画には、見た者の可能性や将来の選択肢を広げる力がある。だから映画を届ける活動は夢の種まきだと教来石氏は言う。

ウィンコーポレーション代表取締役CEO中村真一郎氏の対談企画・第5回では、カンボジアに映画で“夢”を届ける教来石小織氏が何を想うのか、踏み込んだ。

失うものが何もなかった。だからカンボジアに飛び立てた

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中村真一郎氏(以下、中村):
教来石さんは以前、派遣社員をしていた時期があったと聞いて、人材派遣会社を運営している私としては親近感が湧くところです。

教来石小織氏(以下、教来石):
大学で映画を学んでいまして、卒業後は脚本家を目指しながら派遣社員として働いていました。いくつかの会社で電話対応やデータ入力などの事務仕事をしながら、気付けば10年が経過していました。

中村:
いわゆる”ふつう”の派遣社員の生活を送られていた矢先、突然思い立って現在のNPOを立ち上げられたとか。

教来石:
脚本家の夢を諦めたり、プライベートでいろいろあったりと、どん底にいた時期でした。事務の仕事中に「カンボジアの子どもたちに映画を見せたい」と思い立ったのです。けれども、そもそもカンボジアに行ったことはありませんでしたので、「私カンボジアに映画館を作りたいんですけど」といろんな人に話して回り、カンボジアの情報収集から始めました。カンボジアで映画上映といっても、何から始めたらいいのかすべて手探りの中、先に飛行機のチケットを買って逃げられないように自分を追い込んでいきました。2012年のことです。

当時の私には、地位とか名誉とか、失うものが何もないという状況だったので踏み出せたのかもしれません。

中村:
今ではその活動が広がって、現地に「映画配達人」が生まれ、2万人を超えるカンボジアの農村部の子どもたちに映画が届いているそうですね。こうやって教来石さんと向かい合って話していると、そんなに大きなことをしている方に見えないので不思議な気持ちです(笑)。

格差があるからチャンスがある。カンボジアはパワーを感じる国

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中村:
2012年に初めてカンボジアを訪れたとのことですが、実際に行かれていかがでしたか?

教来石:
カンボジアに行く前は、「カンボジアは可哀想な国」だという偏見がありました。いたるところに地雷が埋まっていて、貧しい生活をしている人々ばかりなのだろうと。実際に訪れると、都市部にはオシャレなカフェがあったり、ビルが立ち並んでいたりと発展していました。一方で、都市部から少し離れると、一面の農村。農村部で暮らす方の世帯収入も低く、都市部と農村部での貧富の差を感じました。

以前は「貧富の差が激しいのは良くない」とだけ思っていました。けれど、ある時ブータンに行った知人から「ブータンはいい国ではあるけれど、皆が平等に貧しいのでパワーを感じなかった。だから自分はカンボジアの方が好きだ」と聞いてハッとしました。貧富の差があるからこそパワーがある。それだけチャンスもあるのかもしれません。今のカンボジアでは、英語や他言語を話せるようになったら年収が一気に上がります。目標と努力次第でチャンスを手にできる可能性があるのです。

中村:
“格差”というものは悪くとらえられがちですが、資本主義である以上、“格差”はあってしかるべきものだと私は思っています。

今の日本は、豊かさの弊害が出ていて、“全員平等”を目指すあまり、「頑張っても報われない」というマイナス思考に陥っている若者が多く見られます。だから、ハングリー精神の強い途上国の若者が日本を訪れて働く動きが注目されているのです。

多くの団体からの支援を受けるカンボジア。初めて“夢を届ける支援”という価値観をつくった

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教来石:
カンボジアへは世界中から多くの団体が支援をしています。食料やワクチンだったり、井戸や学校、図書館も支援されています。けれども”映画”の支援はありませんでした。映画は生きる上で絶対に必要なものではないからかもしれません。また、映画というコンテンツの性質上、権利問題をクリアにしなければ上映できないなど壁がありますので、公には誰もやろうと思わなかったというのもあるかもしれません。

けれど、映画はときに生きる目的を与えてくれるものです。たとえば今は豊かな生活を送っている20代のカンボジア人青年は、6歳の時に、「貧しいけれど懸命に勉強して成功する主人公が出てくる映画」を観て、自分もこの主人公のようになりたいと勉学に励んだと話してくれました。「映画を届ける」という活動が正しいのか常に葛藤していた中、彼の話を聞いて、映画の中にロールモデルを見つけることが、良い人生へのきっかけになることもあるのだと感じることができました。

私たちは、子どもたちの心を育むような映画の上映許諾を得た上で、現地語の吹替え版を作って上映しています。吹替えなので、まだ字が読めない子や、内戦の影響で字が読めない親御さんたちにも観ていただくことができます。多くの人たちに届ける中で、10年後、20年後にあの青年のような子が出てきてくれたらいいなと願っています。

中村:
途上国への支援というのは、まずは命の安全を守るものが優先されます。そんな中で、教来石さんは映画で夢を届ける支援という新しい価値観を生み出したのかもしれませんね。内戦を乗り越え、経済発展が進み続けるこれからのカンボジアにおいて、夢の支援というのは重要になってくる気がします。

教来石:
自分たちで映画の”支援”というのはおこがましく、その言い方が適切かはわからないのですが……。映画を上映した村で「皆で学校で映画を観て楽しかったから、明日からまた学校に通う」という子がいたり、「努力すれば夢が叶うことがわかった」という感想をくれる子もいました。カンボジアの農村部では、子どもたちに将来の夢を聞いても「わからない」か、「先生」か「お医者さん」という答えが圧倒的なのですが、「先生になりたい」と言っていた少女が、映画を観た後に「夢が変わりました。映画監督になりたい」と言った事例もあり、映画がもたらす影響は少なからずあるのではと思います。

すべての子どもたちが夢を持ち人生を切り拓ける世界。映画で夢を届けたその後を考える

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教来石:
私たちは、「生まれ育った環境に関係なく、子どもたちが夢を持ち人生を切り拓ける世界をつくる」というミッションを掲げています。映画で夢の選択肢を広げて、そして主人公の生き方を学ぶことで人生を切り拓く力を持ってもらえたらなと。何様かという感じでおせっかいですが。

ただずっと悩んでいるのは、私たちは夢を実現できる環境を作れないのに、「夢、夢」と言ってもいいのだろうかということです。生まれ育った環境によっては、夢までのハードルが高いところもあるでしょう。夢と幸せは必ずしも比例しないですし、新しい世界があると知ることで不幸になるかもしれません。

中村:
何を幸せと感じるか、どの道を選ぶのかは個人が決めることかと思います。ただ、映画で夢の種をまいた後に、我々人材派遣会社にもできることがあるかもしれませんね。たとえば私たちはカンボジア人の方が、夢を叶えるために日本で仕事をすることで経験とお金を得るサポートができる。カンボジアからの意欲の高い人材が増えることは、日本にとっても大きなプラスになるかと思います。実際、昨今は人材派遣会社に限らず多くの企業がカンボジアに注目しています。

教来石:
私たちだけでできることには限りがありますが、中村さんのような企業の方のご協力を得ることで、夢を持った人を実際に応援していくことも可能になるかもしれませんね。

企業との協業により、「生まれ育った環境に関係になく、子どもたちが夢を持ち人生を切り拓ける世界を作る」という夢が、さらに広がるかもしれない。教来石氏の活動の今後の展開を感じられた前編。

後編では教来石氏の組織・リーダー像に迫っていく。いかにして、元派遣社員の“普通”の女性が多くの人を巻き込み、2万人を越える人々のもとへ映画を届けたのか。中村社長の経営者としての視点から見ていく。

後編は近日公開!

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