INTERVIEW
2016.07.26

谷口信輝×中村真一郎【後編】車は凶器だ。運転技術の有無が多くの人生を救う

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平成26年の交通事故死者数は4,113人(警察庁交通局調べ)。毎日、2時間に一人が交通事故で死亡している計算になる。いつ自分や家族、知人が巻き込まれても、あるいは事故の加害者になってしまってもおかしくない。

私たちの生活を支える、非常に便利な交通手段でありながら、一瞬で日常を壊す凶器ともなりうる“車”。物流会社の経営者と、プロのレーシングドライバーという、“自動車”に密接に関わる二人は、どう考えているのだろうか。

後編では“自動車”を主題に対話が繰り広げられ、話の終わりには、谷口選手がセカンドキャリアに想う、ある“願い”が明かされた。

【前編】プロとしての矜持と、仕事に向かうエネルギー

車は、多くの人の人生を狂わせる危険性を持つ

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中村真一郎(以下、中村):
谷口さんは今回、弊社のドライビングアドバイザーに就任していただきましたが、これから先、運転手の方に伝えていきたいことはありますか?

谷口信輝(以下、谷口):
僕も若い頃は配送業で働いていたので、運送業の方たちの気持ちはよく分かるんですよね。どうしても急ぎたい気持ちはあるだろうし、時間にも追われているはずだけど、やっぱり、自動車は便利なツールである一方で危険なツールでもあるということを知っていて欲しいですね。扱い方を間違えると、自分の人生、誰かの人生を狂わせるほどの危険性を持っている。

それから、配送業で運転手を務めるということは自分の会社の看板を掲げて走っているということでもあるので、見られている意識を是非とも持って欲しいです。社員1人1人が会社の名前を背負っていることに誇りを持って仕事ができれば理想でしょうね。

中村:
弊社ではドライバーに長距離を走らせないのですが、その理由の1つが「リスク」です。何かあった時に映像で撮られ、社名が出た時点でもう終わりなんです。だから配送業というのは非常にリスクの高い事業なんですよ。事故ひとつで当事者の人生だけでなく、企業に勤める全員とその家族という、多くの人の人生が終わってしまう、重い業界です。

また、私がひとつ感じているのは、心の部分が乱れている人は事故を起こす可能性があるということです。心の乱れは運転の乱れだと思います。

なので、人を雇うに当たって「お金に追われる人は絶対に雇うな」と言っていますね。お金に忙しい人は不注意によって事故を起こす可能性が高いですし、荷物の管理にリスクもあります。そんな人を1人でも抱えてしまうと、大変なことになってしまいます。

ハイテクノロジーの裏にある危険性。過信は命を奪う

谷口:
最近では、日本でも世界でも、運転技術のハイテクノロジー化が進んでいます。もちろん、これ自体は良いことです。ただ、こういうものは焦ってはいけないとも思います。トライは大事ですが「オリンピックまでに自動運転システムを開発する」という目標を掲げるのは時期尚早なのではないかと。

道路事情ひとつとっても、場所によって違うから同じプログラムで上手くいくようにも思えません。事故が起きてから責任の追及先や対策を考えるというのは日本人の良いところでも悪いところでもあります

自動ブレーキというものがありますが、自動ブレーキを売り文句にするのはどうかと思うんですよね。何故ならユーザーがそれを頼って運転をおろそかにしてしまう恐れがあるので。「こっそり付けておいて、いざ危ない時には車が補助してくれる」という役割じゃないと、運転手が過信して逆に危ないと思います。

中村:
実はうちも、ドローン自動運転の、専門部署を作ろうとしていたんですよ。人手不足もありますし、自動化によって人がいらなくなるんじゃないかと思って。

ただ、現実的には、荷物を運ぶ・届けるという部分で人は必ず関わってきます。そこに技術をもったドライバーさんが必要なのか、アルバイトさんでも問題無いのか。ここが結構微妙なところで、悩ましい点です。

実際に僕の車も自動ブレーキシステムが搭載されていますが、バグが出るんですね。停車しないことがあるんです。あくまでも機械は機械であって、人間の感性には勝てないところがあるから。

谷口:
その通り。バグもあるし、故障もあります。使用する期限も出てくるでしょうし。「あくまでも車は自分で動かすものであって、補助的に機械がある」と考える方が良いでしょう。他の家電製品と違って、人の命に大きく関わっているわけですし。車は凶器なんですよ

運転技術を習う学校を。車に関わる人間としての願い

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中村:
最後のテーマとして、谷口さんはレーサーを引退した後のセカンドキャリアについてどうお考えでしょうか。

谷口:
これは最近よく聞かれることで、僕にとっての「宿題」でもありますね。

「車に携わる仕事がしたい。それで食っていきたい。評論家になりたい」と思って上京してきました。ですが、評論家についてはそこまで目標のようには思っていないですね。

自動車業界で僕の名前は結構定着していて、立ち位置もしっかりできました。今は夢に描いていた以上の状況にいます。

思い描いた夢のような状況にいて、仕事もくる。今はその後の人生でやることを考えるというよりも、目の前にくる仕事を一生懸命全力でこなすことだけなんです。

だから第二の人生というよりも、夢のような状態になれたことに感謝しつつ、これを目一杯やれるところまでやっていくことかなと。そういうふうに思っていますね。

たとえレーシングドライバーを引退しても、レースに出ないだけで、今とあまり変わらない気がするんですよ。

中村:
前回、プロサッカー選手の吉田麻也さんにもセカンドキャリアのお話を聞きましたが、吉田さんや谷口さんのように下地がしっかりしている人は、その後やることも大きく変わらないし、むしろもっと忙しくなるでしょうね。

しかし、谷口さんのように第一線で活躍する方はともかく、レーサー業界全体を見れば、引退した選手はなかなか苦しい状況ではないでしょうか?食べていけない方もいるのでは?

谷口:
確かにそうかもしれません。

実は、業界全体についての僕の願いがひとつあります。それは、運転技術を習うための学校を作って、そこでレーシングドライバーに講師をさせること

僕は運転技術と車の性能はシーソーのようなものだと思っています。自動車メーカーが車の性能を上げれば上げるだけ、運転技術は下がっていきます。ゆとりを持ちすぎて怠慢につながるためです。

逆に、旧型の車に乗るほうが事故を起こしにくい場合もあります。車には頼れない、自分がなんとかしなければと思い、気が入るからです。

そのため、自動車メーカーには車の機能を発達させることはもちろんですが、運転手のレベルを上げることにも力を注いでほしいとずっと考えていました。

だから、各自動車メーカーが協定を結んでお金を出し合い、運転の方法を教えてくれる学校を作ったらいいなと思っています。そこのインストラクターに、レースを終えたレーシングドライバーが就任するシステムがあれば良いのではないかと。その運転学校で僕が講師をできれば、なお最高ですね。

自動車の世界に飛び込むために上京。プロの世界で活躍し数々の名声を集めた谷口選手。

「描いていた夢」以上の場所にたどり着いた彼は、誰よりも良い表情で仕事と向き合っている。

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