INTERVIEW
2017.01.31

八田茂×中村真一郎【後編】アスリートの明日のために。「アスナビ」が実現する、産業界・スポーツ界の未来とは

SHARE :
0
この記事をSNSでシェアする :

2013年9月8日。スポーツに関心のある方ならば、この日付を覚えている方は多いだろう。

そう、56年ぶりに日本でのオリンピック開催が決定した日だ。日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恆和会長と猪瀬直樹都知事(当時)を中心に組織された招致委員会のアピールが功を奏し、イスタンブール、マドリードを抑え、東京が第32回夏季五輪の開催地として選ばれた。

それからというもの、日本におけるスポーツ熱は年々高まり、若きアスリートたちは数年後の大舞台を目指し、日夜練習に明け暮れている。

しかし、野球やサッカーなどのプロスポーツ以外で、オリンピックを目指すアスリートの多くはスポーツをしているだけでは生活できないのが現状だ。とくにマイナースポーツや夏季・冬季限定の「シーズンスポーツ」のアスリートは、大会で得た賞金やスポンサーからの出資だけでは生活できず、企業に所属したりアルバイトで生活費や、遠征費などの競技にかかる経費をまかなっている場合がほとんどだ。

そのような課題を解決するために、アスリートが理解ある企業へ就職できるように取り組んでいるのが、日本オリンピック委員会(JOC)が推進している「アスナビ」というプロジェクトだ。これまで150人近いアスリートと企業のマッチングを実現し、彼らが安心して競技に集中できる環境を提供してきた。

そのアスナビのディレクターとして活躍している八田茂氏は、2020年、そしてそれ以降のスポーツ界の将来についてどのように考えているのか。自身もアスナビを通じて2名のトップアスリートを採用した中村真一郎氏が、企業とアスリートのこれからの関係について八田氏と意見を交わした。

2020年に向け、着々と高まる「アスナビ」の機運

IMG_0003

中村:
2013年、アスナビ経由で、オリンピックを目指す2名の選手と出会うことができました。スノーボードクロスの桃野慎也選手とビーチバレーボールの畑辺純希選手です。桃野選手は、2016年3月にアジア人男子では初となるワールドカップ8位入賞と同年4月に全米選手権優勝を果たし、今は完全にスポーツに集中してもらい、全力でオリンピックを目指してもらっています。畑辺選手は2020年の東京五輪を目標にしているため通常業務もしながらですが、できる限り競技に注力できるような環境づくりをケアしています。

弊社が彼らと出会えたように、企業とアスリートとのマッチングを達成する「アスナビ」はスポーツ界・産業界の未来を考えるうえで非常に良い取り組みだと感じています。もともとは、どのような経緯でこの「アスナビ」を始められたのでしょうか。

▲桃野慎也選手

▲桃野慎也選手
2016年3月にスノーボードクロスのワールドカップスペインで、アジア人男子では史上初となる8位入賞。現在、全日本選手権4連覇中。

▲畑辺純希選手

▲畑辺純希選手
2015年におこなわれたビーチバレージャパン、ジャパンビーチバレーボールツアーファイナル大阪大会では優勝を経験。次の東京五輪を目指して国内外の大会を転戦し、確実に実力を付けている。

八田:
アスナビの原型ができたのは2008年のことです。もともとは、引退していく選手の就職支援の目的で始めました。しかし実際に始めてみると、現役中にスポンサー契約を切られてしまうことや、大学卒業後に競技を続けられる会社が見つからないという相談のほうが多かったんですね。そう考えると現役の選手をサポートする施策を整備するほうが喫緊の課題だと感じ、そちらに舵を切ったのが2010年のことです。

最初は認知度も低く、細々とやっていたのですが、2013年の秋に東京オリンピックが決まったあたりから徐々に需要が増えてきました。

これまで転職が決定した人数は6年半で100社150人。直近1年間で50人近くのマッチングが成立しました。アスナビができて最初の2、3年は合計しても30〜40人だったので、認知度は相当上がってきていると言えるでしょう。

応援を素直に受け取れる感性を持っているから、応援される

IMG_0030

中村:
日本は競技を続けながら生きていくのは難しい国だと、私は感じています。スポーツに対して社会がリスペクトを持って、お金が流れるような仕組みにはなっていない。

ほかの会社のお話を聞くこともあるのですが、アスリートを社内に入れても、アスリートへの理解がないと、なかなかウィンウィンの関係というのは難しいようですね。トレーニングや遠征ばかりで会社の仕事をしなければ周囲から文句が出たり、逆に通常業務をさせすぎてしまって選手がスポーツに専念できなかったり……。

八田:
我々が企業様に紹介しているのは、オリンピック代表候補である「強化指定選手」。競技団体からすれば最上位の選手です。個人競技の選手が多く、出社日数も限られるため、競技と仕事の両立に悩む選手も少なくありません。企業側もややもすると“お客さん”扱いするようなケースもあり、企業と選手、競技団体の関係者も交え、その活用については様々な試行錯誤がおこなわれているのが現状です。 

中村:
これまでアスナビ経由で採用された方で、オリンピック出場が決定した選手も多いそうですね。

八田:
はい。やはりそういった選手は、社内での盛り上がりも違いますね。サポートをする従業員と選手の間で多くのドラマが生まれています。実際、その間でドラマが生まれた会社は、アスナビの取り組みの成功例となっていますね。その会社内で選手の扱い方のノウハウも貯まっていきますし。

中村:
弊社もそうですが、アスリートを採用した会社は選手のオリンピック出場だけを求めているというわけではないですよね。

八田:
もちろん、会社によって期待値に差はあります。しかしありがたいことに、オリンピック出場だけがすべてではないと考えている会社さんが多いですね。選手の努力を最大化するための支援を企業がおこなっているという状況です。

ただ、そうやって応援してもらえるのも選手がそれだけの人間性を持っているからです。採用された選手が100人を超えた2016年の春、選手を採用した会社にアンケート調査をおこないました。そこで「選手を採用するうえで一番重視したポイントは?」という質問で一番多かった回答が、“人間性”

応援を素直に受け取れることのできる感性を持つ選手だから、その応援に応える活躍を見せようと努力する。そういう選手は、周りももっと応援したくなる。結果的にうまくいくんですよね。

そういうふうに、素直な人間性を持った選手であることが重要ですね。もちろん、それで世界と渡り合える競技力も備えていれば文句なしですが(笑)。競技力だけで採用したという会社はほとんどありません。あくまで企業の一員として、従業員から愛される選手がいいねと。

中村:
それは非常にわかります。私も、桃野選手と畑辺選手を採用するうえでいろいろな要素を検討したのですが、一番重視したのは“人間性”でした。

オリンピック後に向けて。無常の価値を持つ、「つながり」という種をまく

IMG_0018

中村:
2020年に向けて、アスナビを利用した採用はどんどん増えているというお話がありましたが、逆に東京オリンピック「後」についてはどのように考えていますか?どうしても、「祭りの後」となってしまうように思うのですが……。

八田:
そうですね。北京やロンドンの例を見ても、確かにそのような雰囲気になることは間違いないでしょう。スポーツ全体への投資額も減ると思われます。では、それに対してアスナビはどうするのか。よく聞かれる質問です。

2020年以降の対策として、私は非常にシンプルに考えていて。とにかく、それまでに1人でも多くの選手を雇ってもらう。本当にそれだけだと思っています。

その選手たちが会社の中で頑張ってくれれば、少しくらいスポーツの熱が下がっても、その会社ではまたアスリートを採用しようと思う割合が増えるだろうと思うのです。

人間の関係性というものは目には見えないもの。だからこそ、逆に無常の価値があると私は思っています。今はまさに「種まき」の段階なのです。

中村:
確かに、私も実際、そのように感じましたね。アスリートが社内に良い影響を与えてくれると、次はスポーツチームを会社に持つのもありかもしれないと思っています。

八田:
まだまだ試行錯誤中ですが、この「アスナビ」の取り組みが広がっていかないと、結局は日本のスポーツ界全体が立ち行かなくなってくるのが目に見えています。スポーツ界と産業界が相互に理解し発展していく関係作りを目指してこれからも尽力していきます。

SHARE :
0
この記事をSNSでシェアする :

この記事を読んだ後に
よく読まれています!RECOMEND TOPICS