INTERVIEW
2016.09.20

大室正志×中村真一郎【前編】現代の職場でうつにならないために。日本人の行動原理は“不安”

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「日本人の行動原理のほとんどは“不安”です」

産業医・大室正志氏から発せられた言葉だ。

大室正志氏は現在、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の統括産業医を経て、現在は同友会春日クリニックの産業医室に所属しながら30社以上の嘱託産業医として、毎日飛び回っている。一般の医師が医院で患者を「待つ」のに対し、産業医は自らが会社に「赴く」。人事部や総務部はもちろん、階層によらず様々な社員の発せられる悩みを打ち明けられる立場でもある。それゆえに「社員の健康状態」だけでなく、時に「組織の健康状態」も想像できてしまうと言う。

現代の日本の企業は病んでいる。自殺、うつ病、常軌を逸した長時間労働。隣に座っている同僚が、いついなくなっても不思議ではない。自分の精神が、身体が、いつ限界を迎えてもおかしくない。

ウィンコーポレーション代表、中村真一郎社長が一流の仕事人と語り合う対談企画・第4回。職場のメンタルヘルスを改善するために、経営者は、上司は、そして従業員はどうすべきなのだろうか。大室正志氏とともに考えていく。

写真は同友会 春日クリニックにて

うつ病は、環境因子と遺伝因子により発病する

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中村真一郎社長(以下、中村):
うつ病が社会問題になっていますが、うつ病予備軍というのは、先生の目から見て、多いとお考えですか。

大室正志氏(以下、大室):
うつ病はある意味糖尿病と似ている部分があります。糖尿病はどんな食糧難の時代、どんなに節制をしている人の中でも一定数いる。これは遺伝的な影響ですのである意味、「しょうがない」。その一方で、どんなに暴飲暴食をしても全然糖尿病にならない耐糖能が高い方もいます。普通の人は、この「非常になりやすい人」と「まったくならない人」の中間です。

適度に摂生した生活を送っている分には問題ないけど、「夜中にラーメン」「飲み物は常にコーラ」のような生活を送っていればなってしまいます。つまり「なりやすい人からなりにくい人のグラデーション」が存在する。そしてそのグラデーションは「遺伝因子」と生活習慣に代表される「環境因子」の相互影響で作られているのです。乱暴にまとめてしまうと、うつ病もこれと似た部分があります。

中村:
と言うと、うつは遺伝でも発生するということでしょうか。うつになりやすい家系も存在するのですか?

大室:
はい。残念ながら存在します。もちろん家族ですから食生活や生活スタイルは似るはずです。また「育ち」により後天的に性格が似通う影響ということもあるでしょう。ただそういった部分を除いても、やはり遺伝的影響は否定できないようです。逆に言えば、「うつ病」が単に「気の持ちよう」なんかではなく、「脳の病気」としての側面もあるということの証左でもあるのですが……。

そういった側面もあるので、『会社でうつをゼロにしましょう!』という掛け声は、気持ちは分かりますが、実際は難しいと言えます。そのため、産業医としての現実レベルの目標は、過重労働や上司からの過度なプレッシャーによる「本来はならずに良かったうつ病」を防ぐという部分にあります。

中村:
うつ病になりやすい人、というのはいるのでしょうか。

大室:
男性と女性、どちらがうつになりやすいと思いますか? 統計で言えば、女性です。これには女性ホルモンの影響なども複雑に作用していると言われています。

ですが自殺率は男性のほうが圧倒的に高いのです。しかも自殺率の男女格差は戦後一貫して拡大しており、今では3倍近くになっています。この原因には様々な要因が挙げられていますが、男性の自殺者の一部はうつ病に罹患していても、適切な治療が受けられていなかった可能性があります。男性は自分から「言い出すこと」が苦手ですので。私が見てきたところ、女性と比べて男性は自分の弱みを打ち明けることがうまくありません。

学会で聞いた話ですが、欧米のうつ病患者は、自分の心の状態をちゃんと周りに伝える。一方でアジア、特に儒教文化圏のうつ病患者は、頭痛や腹痛など身体的な体調不良を訴える傾向があると言います。例えば不登校児童が「腹痛」を理由に学校を休む事がしばしば起きることは有名です。これはある意味本当に「痛い」のですが、それと同時に小学生は「行きたくない理由を言語で説明するのが苦手」という側面もあります。

それと似たことがアジアの特に儒教文化圏の男性に言えるのではないでしょうか。私が今まで見た限りですと、日本の男性は「自分の弱み」を発する言語のバリエーションが少ない印象があります。小さい頃から「我慢しろ」と言われてきたことが原因かもしれませんが、根底には日本全体が弱みを見せない文化を持っていることが要因のひとつだと私は思っています

中村:
「弱みを見せない文化」ですか。

大室:
一見するとアメリカのような競争社会の方が弱みを見せないと思われがちですが、カウンセリングや教会など、悩みを打ち明けるアウトソーシング機関が充実しています。一方日本は新橋の居酒屋のような、愚痴レベルの悩みを話す場所はあるものの、それより深刻な悩みについては特に男性は口をつぐむ傾向があります。

日本人にカウンセリングをしても、なかなか自分の精神状態を表す言葉が出てきません。その代わりに体調不良を訴える。こういった方々がうつ病の予備軍なのです。

弱みを見せないから弱い。感情を表に出してもいい

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中村:
これからの時代、自分の弱みを見せることが自分を守る術になるということですね。

大室:
うまく弱みを見せられる人はある種の可愛げがあって人を引き寄せます。弱みを見せるからこそ、強い。

しかし、特にエリート意識の強い人は弱みを見せたがらない。弱みを見せないから弱いのですが。

例えばストレスや疲労を溜め込んでしまって、数日休んだとします。彼らは職場に出勤したとき、気丈に振る舞うのですが、それがよくありません。

周りは「ごめんね!休んじゃって!フォローしてくれてありがとう!」というようなことを言って欲しいのです。たとえ何も言わなくとも、「頼って欲しい」と思っています。なのに、そこで無理に何事もなかったかのように振る舞うと、知らず知らずのうちに周りの反感を買い、誰も頼れなくなり、休職してしまったりする。こういったケースがけっこう多い。

中村:
『弱みを見せる力』というのはこれから先、日本社会を生きていく中で必須になりますね。新入社員研修で教えてもいいぐらいですね。

大室:
柔道部に入ったらまずは一本背負いじゃなくて徹底的に受け身から教えますよね? 新卒の社員にはまずは「弱みをうまくみせる研修」をしてもいいかもしれません。「心の受け身」にはなりそうです。

ただ、弱みを見せるためには、自分の中でひとつ自信を持てるものがなくてはならない。弱みを見せられないということは、裏を返せば自信のなさでもあるのです。

“自信”は自分を社会的に下から上に押し上げる力、“プライド”は「こうしなくてはならない」と自分を上から社会的に押さえつける力です。自信がなくてプライドが高いと、抑圧された人間になってしまいます。そうした人が上昇していくのは難しい。

かといっていきなり自信をつけるのは難しいので、まずはプライドという重しを取り払ってあげなくてはなりません。

中村:
確かにうなずけます。私の周りでも、プライドが高く弱みを見せない人はあまり成果を出せていないように見えます。

大室:
私が昔、病院に勤務していた時、夜勤との交代直前に緊急で来た救急患者の入院指示の仕事を渡すと「えーっ!?今からですか!?」と私に文句を言うナースがいました。もちろん、あくまで関係ができている中で冗談っぽくですが。

ですが、そういうナースさんのほうが、仕事を辞めませんでした。そこで「は、はい……」と感情を押し殺していたような方のほうがさっさと辞めてしまう・・。

「えーっ!?」と私に対して文句を言うのは、ただの“感想”。しかし、彼女は、社会的にやらなければならないからという“理性”で業務をします。“感想”は言うけれど仕事は“理性”でおこなう。そういう風に、「やらなければならないことだけれど、むかつく」でいいんですよ。

逆に、“理性”で“感想”を押し殺して、何も文句を言わない“良い子”はうつになって仕事を辞めやすいです。感情と理屈を一致させようとすると無理が出るのです。

大人になるというのは感情を出さないことではなく、感情とうまく付き合うことですね。

相手は何を不安に思っているか。不安の根源を知る大切さ

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中村:
最近、「日本人は生産性が悪い」という言説を聞きますが、そういった日本人的なマインドと何か関係があるのでしょうか。今まで言及された遺伝や文化が、その生産性の悪さに影響していると思いますか。

大室:
日本人は2次産業の生産性が高く、3次産業の生産性が低い。成果物が目に見えない3次産業に関しては、どうしても「長時間働いた人が偉い」となりがちです。

サービス残業でも何でもそうですが、日本人は時間にルーズです。始まる時間はきっちりしていますが、終わる時間に対してはルーズ。欧米のような、終了時刻が迫ってくるにつれて焦って緊迫感が出るということがない。時間通りに終わらせようという意識が低いのではないでしょうか。

中村:
確かに、日本人は朝早く来たら勝ち、夜遅くまで残ったら偉い、という価値観ですね。これは日本人の性格の問題でしょうか?

大室:
日本人の行動原理のほとんどは“不安”です。上司が部下を叱るのも、不安から来ています。人によって不安の持ちどころが違うので、その人の“不安”の根源を見るようにするとよいでしょう。

例えば、責任を取らされることに不安を持つ上司にプレゼンするときには、「〇〇さんの許可を取っています」と、不安を分散させると効果的です。私は、人とコミュニケーションするときは、その人がどこに不安を感じるかを見て、その不安を減少させるようにしています。

不安を分析して、その不安をどうしたら減らせるか、上司も部下も考えるといいでしょう。威張る上司は不安を感じています。「裏でバカにしているんじゃないか」と不安に思うから威張るわけです。だから、そういうタイプの場合、最初に取り入って、信頼関係をしっかりと築ければ、その後多少生意気を言っても許されるでしょう。

また、人間は自分の機能が低下した時に不安になります。だから、耳が遠くなったり、記憶が衰えたお年寄りが、家族に対して不信感を持つのもそういうことです。

日本に赴任してきた外資系企業の代表も同じです。急に英語が一部でしか通じなくなるので、相対的に「コミュニケーション機能が低下した状態」になります。こんなとき、耳が遠くなった老人のような「機能低下の不安」を抱きがちです。部下が敵なのか味方なのか、不安になるわけです。それは周囲が日本語で会話をし出すとさらに増大します。

そんなときは、普段なら「ちょっと気持ち悪い」と思う位にベタに媚び、「私は敵じゃありませんアピール」をする部下が頼りになるように見えたりします。だから重要ポストに登用してしまうけど、その人は実際には仕事ができないとわかる。けれど、どこも社長は数年で変わるので、取り入るタイプの人は新社長にまた「ベタに媚びる」か、新しい新任社長がいる会社に転職していく。外資系にはそんな方も一部います(笑)。

中村:
目からウロコというのは、まさにこのことですね。そうやって“不安”という視点で見るとすべて解決するから驚きです。銀行が投資を渋るのも不安から……というように、日本の経済の根底には“不安”があったのですね……!

大室正志氏が語る、企業の健康問題。後編は経営者の視点へと移る。2015年から導入されたストレスチェックは果たして有効か。ウェルネス経営を実現するためには?

後編はこちら:大室正志×中村真一郎【後編】“ストレスチェック”は企業を前進させるのか。これからの健康経営の話

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